相続手続き100チェックリスト No.90。個人事業を相続したら、故人の消費税申告、相続人の納税義務、計算方法を分けます。故人分は原則4か月以内です。故人の簡易課税等は自動承継されず、未分割、インボイスのみなし期間、2026年分までの2割特例と2027・2028年分の3割特例も確認します。
No.90 事業相続の消費税・期限早見表
- 項目
- 期限・確認内容
- 故人分の申告
- 相続開始を知った日の翌日から4か月以内
- 課税事業者届出
- 相続の付表を添付し、事由発生後速やかに
- 簡易課税
- 相続年特例を含め相続人名義で再判定
- インボイス死亡届
- 速やかに/書面は登録センターへ
- みなし登録
- 相続翌日から最長4か月の暫定措置
- 2割特例
- 要件を満たす個人は2026年分まで
- 3割特例
- 要件を満たす個人の2027・2028年分
故人の申告・後継者の課税判定・計算方法を分ける
同じ事業を続けても、故人と相続人は別の消費税事業者です。故人分の申告は原則4か月以内で、相続人の課税判定は相続年・翌年・翌々年ごとに行います。
故人の簡易課税等は承継されません。相続年の簡易課税特例、インボイスのみなし登録、2割・3割特例はそれぞれ適用要件が違います。
事業相続の消費税10STEP
- 1
故人の死亡日・相続を知った日・事業承継日を確定する
- 2
故人と相続人の消費税申告書・届出控えを集める
- 3
死亡日までと承継後で売上・仕入れ・資産を区切る
- 4
故人分の申告要否と4か月期限を確認する
- 5
相続年・翌年・翌々年の納税義務を判定する
- 6
未分割なら各相続人の法定相続分で判定する
- 7
簡易課税・課税事業者選択を相続人名義で確認する
- 8
インボイス死亡届・みなし期間・後継者登録を処理する
- 9
一般課税・簡易課税・2割/3割特例を比較する
- 10
e-Tax等で提出し、控え・受信通知・判定表を保存する
相続した事業の消費税で最初に分ける3つの問題
個人事業を相続したときは、故人の死亡年分の申告、後継者が課税事業者になるか、後継者が一般課税・簡易課税・経過措置のどれで計算するかを分けます。同じ店舗・屋号を続けても、故人と相続人は別の事業者です。
国税庁 No.6602は、故人が出した課税事業者選択、課税期間特例、簡易課税の届出の効力は相続人へ及ばないとしています。故人の申告書と届出控えを集め、相続人名義で必要な届出を判定します。
誰が必要か
課税取引を行う個人事業を相続で全部または一部承継した相続人と、死亡時まで消費税の申告が必要だった故人の相続人です。故人が免税事業者でも、相続人自身の既存事業、インボイス登録、相続後の売上によって確認が必要です。
国税庁は「事業を承継した場合」を、故人の事業の全部または一部を継続するため、相続により財産の全部または一部を承継した場合と説明しています。単に相続財産を取得しただけか、事業を継続したかは実態で整理します。
故人の消費税申告は4か月以内
故人が消費税の課税事業者で、死亡時までの課税期間について申告が必要なら、相続人が故人分の消費税・地方消費税を申告します。国税庁の付表案内では、期限は相続開始を知った日の翌日から4か月を経過した日の前日までです。
現行の申告書・添付書類一覧にある「付表7(死亡した事業者の消費税及び地方消費税の確定申告明細書)」を使います。所得税の準確定申告とは税目が違うため、どちらか一方を出せば終わるわけではありません。
相続があった年の納税義務
もともと免税事業者である相続人が事業を承継した場合、故人の基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると、相続日の翌日からその年12月31日まで免税になりません。1,000万円以下なら原則免税ですが、相続人が課税事業者を選択している場合などは課税です。
相続人が相続前から課税事業者、インボイス発行事業者、または別事業の売上により課税となる場合は、故人の売上だけで結論を出せません。相続人の既存事業を含む判定を先に行います。
翌年と翌々年の納税義務
相続年の翌年・翌々年は、各年の基準期間に対応する故人と相続人の課税売上高を合計し、1,000万円を超えるかを確認します。合計が1,000万円以下でも、相続人が課税事業者を選択している場合やインボイス登録により課税となる場合があります。
「相続年だけ課税」または「故人が免税なら後継者も免税」とは限りません。相続年、翌年、翌々年を別行にした判定表を作り、その後は相続人自身の通常の判定へ移ります。
遺産分割前は全相続人の判定が必要
相続人の一人が事実上事業を続けていても、相続財産が実際に分割されるまでは、全相続人が共同して事業を承継したものとして扱われます。故人の基準期間売上を民法上の相続分で按分し、各相続人が課税事業者になるか判定します。
遺産分割協議の成立日だけでなく、実際の分割実行日、事業資産・売掛金・在庫・店舗を誰が取得したかを記録します。未分割の期間がある場合は、申告対象者を一人に決めつけないでください。
相続で課税事業者になったときの届出
相続の特則により課税事業者となる場合は、消費税課税事業者届出書に「相続・合併・分割等があったことにより課税事業者となる場合の付表」を添付します。提出時期は「事由が生じた場合、速やかに」です。
課税事業者届出書は課税になった事実を知らせる書類で、任意に課税事業者を選ぶ課税事業者選択届出書とは別です。名称が似ているため、提出目的を確認します。
故人の選択届出は引き継がれない
故人の課税事業者選択届出書、課税期間特例選択等届出書、簡易課税制度選択届出書は、相続人へ自動承継されません。相続人が利用するなら相続人名義で新たに提出します。
反対に、相続人が相続前から自分の事業について出していた届出は、その相続人の事業者単位で確認します。承継した事業だけ別の計算方法を選べるとは限りません。
簡易課税を相続年から使える場合
消費税基本通達13-1-3の2では、事業を営んでいなかった相続人が承継した場合、または個人事業者である相続人が簡易課税を適用していた故人の事業を承継した場合に、相続があった課税期間中に相続人が簡易課税制度選択届出書を提出すると、その課税期間から適用できる取扱いを示しています。
ただし、相続人自身の基準期間売上が1,000万円を超えて既に課税事業者である場合には、この相続年の特例が使えない場合があります。また、簡易課税は基準期間の課税売上高5,000万円以下などの要件があり、調整対象固定資産・高額特定資産による制限もあります。
簡易課税は原則2年間継続が必要です。卸売、小売、製造、サービス、不動産などの事業区分でみなし仕入率が異なり、複数事業は売上区分が必要です。設備投資が大きく一般課税なら還付となるケースでも、簡易課税では同じ結果になりません。
インボイス発行事業者を相続した場合
故人がインボイス発行事業者なら、相続人は適格請求書発行事業者の死亡届出書を速やかに提出します。書面の提出先は、被相続人の納税地を管轄するインボイス登録センターです。
事業承継した相続人は、相続日の翌日から、自分の登録日の前日または死亡日の翌日から4か月を経過する日のいずれか早い日まで、インボイス発行事業者とみなされ、故人の登録番号を使う取扱いがあります。これは最長4か月の暫定措置で、恒久的な番号承継ではありません。
みなし期間中は相続人が課税事業者として扱われるため、請求書発行だけでなく、その期間の消費税申告も確認します。期間後もインボイスを交付するなら相続人自身の登録申請が必要です。
2026年の2割特例と2027・2028年分の3割特例
2割特例は、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった一定の事業者について、2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する課税期間で利用できます。個人事業者は要件を満たせば2026年分までが対象です。
2026年度税制改正の国税庁案内では、個人事業者の2027年分・2028年分について、一定の要件を満たすインボイス発行事業者は納付税額を売上税額の3割とする3割特例を利用できます。個人事業者であること、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であること、インボイス登録を受けていることなどを確認します。
2割・3割特例は、相続によって基準期間売上が1,000万円を超え、インボイスと無関係に課税事業者となる期間などでは使えません。申告時に一般課税、簡易課税、2割または3割特例の適用可否と税額を比較します。
2割・3割特例後に簡易課税へ移る期限
原則、簡易課税の届出は適用課税期間の初日の前日までです。ただし、2割特例または3割特例を使った課税期間の翌課税期間から簡易課税へ移る場合は、その翌課税期間の申告期限までに届出る移行措置があります。2026年度改正後の現行案内で対象期間と要件を確認してください。
相続年から使える特例と、2割・3割特例後の移行措置は別制度です。単に「年末まで」または「申告期限まで」と覚えず、どの規定で期限が変わるのかを届出控えに記録します。
一般課税・簡易課税・経過措置の選び方
- 一般課税:売上税額から実際の控除対象仕入税額を差し引きます。帳簿・請求書等の保存と課税区分が重要です。
- 簡易課税:基準期間売上5,000万円以下等で、事業区分ごとのみなし仕入率を用います。
- 2割・3割特例:インボイス登録により免税から課税になった一定の事業者だけが、対象期間に選べます。
大きな設備投資や仕入れがある場合、一般課税なら還付になり得ますが、簡易課税や2割・3割特例では通常その還付を受けられません。売上だけで選ばず、死亡日以後の仕入れ、設備投資、在庫、業種、取引先のインボイスを含めて複数年で比較します。
必要書類
- 故人と相続人の過去の消費税申告書・付表・受信通知
- 課税事業者選択、簡易課税、課税期間特例等の届出控え
- インボイス登録通知書、死亡届出書、相続人の登録申請書
- 死亡日、承継日、分割実行日が分かる戸籍・遺言・遺産分割資料
- 総勘定元帳、売上・仕入帳、請求書、領収書、通帳
- 棚卸表、固定資産台帳、設備投資計画
- 相続人自身の既存事業の申告書・帳簿
- 課税事業者届出書と相続用付表、故人分申告の付表7
費用
税務署への届出・申告自体に通常の申請手数料はありません。消費税・地方消費税の納付、郵送、会計ソフト、レジ・請求書システム改修、税理士報酬などがかかります。申告期限を過ぎると加算税や延滞税が生じることがあります。
野田市・柏市・流山市・松戸市の管轄・問い合わせ先
後継者側の届出・申告は後継者の納税地、故人側の死亡届・申告は故人の納税地を基準に提出先を確認します。事業所所在地だけで決まるとは限りません。
納税地が野田市・柏市なら柏税務署、流山市・松戸市なら松戸税務署の管轄です。インボイス死亡届を書面で出す場合は、被相続人の納税地を管轄するインボイス登録センターが提出先です。面接相談は事前予約をしてください。確認日:2026-09-10。
自分でできるか
故人と相続人の帳簿が完成し、事業・相続人が一つで、売上区分や設備投資が単純なら本人対応できる場合があります。国税庁の申告書作成コーナー、e-Tax、現行様式を利用し、提出後は受信通知を保存します。
専門家に相談した方がよいケース
- 死亡から4か月の申告期限が迫っている
- 遺産未分割または複数の相続人が事業に関与する
- 相続人が既に別事業を営んでいる
- 故人または相続人がインボイス発行事業者である
- 相続年から簡易課税を使いたい
- 設備投資、事業用不動産、複数税率、複数業種がある
- 一般課税で還付の可能性がある
- 2割・3割特例の適用可否が不明である
注意点
- 故人と後継者を分ける:死亡年分の申告と承継後の申告は別です。
- 選択は承継されない:簡易課税などは相続人名義で再判定します。
- 未分割を見落とさない:事実上の後継者一人だけで判定しません。
- インボイスは最長4か月:故人番号を恒久利用できません。
- 特例を混同しない:相続年の簡易課税、2割・3割、移行措置は要件が別です。
- 複数年で試算する:届出の継続期間と設備投資も含めます。
よくある質問
故人が簡易課税なら相続人もそのまま簡易課税ですか
いいえ。故人の選択届出の効力は相続人へ及びません。相続人名義の届出と、基準期間売上・相続年特例・資産取得制限を確認します。
故人分の消費税申告期限は所得税の準確定申告と同じですか
どちらも相続開始を知った日の翌日から4か月以内が基本ですが、別の税目・申告書です。消費税では死亡した事業者用の付表7を確認します。
故人のインボイス番号はいつまで使えますか
相続人のみなし登録期間に限られ、相続人自身の登録日の前日または死亡日の翌日から4か月を経過する日のいずれか早い日までです。その後も必要なら相続人自身が登録を受けます。
2027年も2割特例を使えますか
個人事業者の2割特例は2026年分までです。2027年・2028年分は、一定の要件を満たす個人事業者に3割特例が設けられています。相続特則で課税となる場合などは対象外になり得ます。
売上が5,000万円以下なら自動的に簡易課税ですか
自動ではありません。原則として相続人名義の簡易課税制度選択届出書が必要で、適用時期、基準期間売上、高額資産等の制限を確認します。
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参考にした公式情報
- 国税庁「相続で事業を引き継いだ場合の納税義務について」
- 国税庁「相続があった場合の納税義務」
- 国税庁「消費税基本通達 第13章第1節」
- 国税庁「消費税申告書添付書類」
- 国税庁「適格請求書発行事業者の死亡届出手続」
- 国税庁「2割特例」
- 国税庁「2026年度税制改正特集」
情報確認日:2026年9月10日