相続手続き100チェックリスト No.92。会社の「役員借入金」は、故人が貸主なら故人側の貸付金債権です。「役員貸付金」は、故人が借主なら故人側の返済債務です。死亡日現在の契約・元帳・通帳を照合し、貸付金評価、債務控除、非上場株式、会社の返済処理を一致させます。
No.92 役員借入金・貸付金の読み替え表
- 会社帳簿の科目
- 故人・相続側での確認
- 役員借入金
- 故人が貸主なら会社への貸付金債権
- 役員貸付金
- 故人が借主なら会社への返済債務
- 仮受金・仮払金
- 取引ごとに実体と精算根拠を確認
- 未払役員報酬
- 故人の未収金になり得るため決議・支給日を確認
- 残高基準日
- 決算日ではなく死亡日現在
- 貸付金評価
- 原則、返済元本+既経過利息
- 行政上の期限
- 一律なし/相続税申告は原則10か月
会社の科目名を故人側から逆向きに読む
役員借入金は故人側の債権、役員貸付金は故人側の債務になり得ます。ただし、科目名だけでは当事者・残高・法律関係は確定しません。
貸付金債権は原則として返済元本と既経過利息で評価し、債務控除は死亡時に現存する確実な債務かを確認します。会社が赤字・債務超過というだけで貸付金をゼロにせず、死亡日時点の回収可能性を客観資料で判断します。
役員借入金・貸付金を確認する10STEP
- 1
会社の決算書・試算表・総勘定元帳を集める
- 2
役員借入金・貸付金・仮勘定の内訳を抽出する
- 3
契約書・議事録・双方の通帳と照合する
- 4
取引ごとに実際の貸主・借主を確定する
- 5
死亡日現在の元本・返済・利息を計算する
- 6
故人側の債権と債務へ正しく読み替える
- 7
貸付金の回収可能性と担保を資料化する
- 8
非上場株式と貸付金債権を別々に評価する
- 9
返済先・名義・相続税申告を一致させる
- 10
相殺・放棄・DESは税務法務確認後に行う
最初に「誰が誰へ貸したか」を確定する
会社の勘定科目は会社から見た名称です。会社帳簿の「役員借入金」は会社が役員等から借りている負債なので、故人が実際の貸主なら故人側では会社に対する貸付金債権です。反対に「役員貸付金」は会社が役員等へ貸している資産なので、故人が実際の借主なら故人側では会社への返済債務です。
科目名だけでは貸主・借主や残高を確定できません。仮払金、仮受金、未払役員報酬、立替金、配当、個人的支出が混在することがあるため、死亡日現在の取引ごとに契約と入出金を照合します。
誰が確認する手続きか
亡くなった方が同族会社の役員・株主・元役員で、会社の貸借対照表や総勘定元帳に役員借入金、役員貸付金、仮払金、仮受金、未払役員報酬などがある場合です。会社株式を取得しない相続人にも、故人個人の債権・債務として関係することがあります。
民法896条は、相続人が相続開始時から被相続人の一身専属でない権利義務を承継すると定めています。ただし、会社が誰へ返済すべきか、各相続人が会社債務をどう負担するかは、遺言、相続関係、遺産分割、債権の性質、会社への対抗要件を踏まえて確認します。
期限
役員借入金・役員貸付金の名義確認自体について、全国共通の行政申請期限はありません。ただし、相続放棄の判断や会社の支払停止、相続税申告に影響するため、死亡後できるだけ早く残高を固定します。
相続税申告が必要なら、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。会社の決算期や申告期限と相続税の10か月期限は別なので、会社の決算を待つだけで期限管理をしないでください。
必要書類・確認資料
- 死亡日を含む事業年度の試算表、貸借対照表、総勘定元帳、補助元帳
- 過去数期の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書
- 金銭消費貸借契約書、借用書、返済予定表、利息計算表
- 会社と故人双方の通帳、振込記録、現金出納帳、領収書
- 取締役会・株主総会議事録、役員報酬決議、精算書
- 担保・保証・相殺に関する契約書
- 遺言書、戸籍、法定相続情報一覧図、遺産分割資料
- 会社株式を相続する場合は株主名簿と株価評価資料
会社法432条は株式会社に会計帳簿の作成と閉鎖後10年間の保存を求めています。ただし、相続人だから当然に会社の全帳簿を閲覧できるとは限りません。会社の代表者・経理担当・顧問税理士へ、必要な範囲の残高証明と根拠資料を依頼します。
死亡日残高の確定方法
直近決算書の期末残高をそのまま使わず、期首から死亡日までの増減を取引単位で追います。元本、返済、利息、立替精算、役員報酬、配当、個人的支出を分け、会社帳簿と故人の通帳が一致するか確認します。
契約書がないことだけで債権・債務が直ちに消えるわけではなく、帳簿にあることだけで実在が確定するわけでもありません。送金目的、当事者の合意、返済実績、議事録、申告書の継続的な処理を組み合わせて判断します。
役員借入金を故人の貸付金債権として評価する
財産評価基本通達204では、貸付金債権等を原則として返済されるべき元本と死亡日現在の既経過利息の合計で評価します。利息の約定がある場合は、最終利払日から死亡日までの利息も確認します。
通達205は、破産・民事再生・特別清算、6か月以上の休業、真正な債務整理など、死亡日時点で回収不能または著しく回収困難と見込まれる一定の金額を元本価額へ算入しない取扱いを定めています。
会社が赤字、債務超過、長期未返済という理由だけで自動的にゼロ評価にはできません。国税庁掲載の裁判例資料でも、債務者の財産内容や事業継続可能性などを死亡日時点で総合判断し、債務超過だけでは回収不能が客観的に明白とはいえないとされています。現預金、売掛金、不動産、担保、他債権者、返済実績、法的整理の状況を資料化します。
役員貸付金を故人の債務として確認する
国税庁 No.4126では、相続税から控除できるのは、故人の死亡時に現に存在し、確実と認められる借入金や未払金などです。会社帳簿に残高があるだけでなく、故人が負う返済義務、元本、利息、弁済期、返済履歴を確認します。
会社が役員へ無利息または低利で貸していた場合は、国税庁 No.2606により利息差額が給与課税となることがあります。2026年中に新たに貸し付けた一定の金銭の基準利率は1.3%ですが、会社の借入利率、合理的な平均調達金利、貸付年、例外要件で取扱いが変わります。故人の死亡までの源泉・給与処理も顧問税理士と点検します。
非上場株式と貸付金債権は別々に調べる
故人が会社株式と会社への貸付金債権の両方を持つ場合、両方を財産調査の対象にします。貸付金を会社の負債として株式価値へ反映することと、故人個人が持つ返還請求権を別財産として評価することを混同しないでください。
取引相場のない株式の評価通達では、取得者の株主区分、会社規模、類似業種比準価額、純資産価額などにより評価方法が変わります。貸付金の返済・放棄・資本振替を先に行うと、会社の純資産や株価評価にも影響する可能性があります。
相続後の返済先と会社側の処理
会社は、故人名義の残高を誰の名義へ振り替えるか、誰へ返済するかを、相続関係と根拠書類で確認します。一部の相続人から請求を受けても、口頭説明だけで全額を支払わず、遺言、遺産分割資料、他の相続人の関係、対抗要件を会社の専門家と確認します。
会社と故人の間に双方の金銭債権があっても、帳簿上で自由に差し引けるとは限りません。相殺は債権の種類、弁済期、契約上の禁止、相続後の帰属などを確認してから行い、相殺通知と仕訳根拠を残します。
債権放棄・DES・資本振替を先にしない
相続後に債権放棄、債務免除、相殺、DES(債務の株式化)を行うと、相続税評価、会社の債務免除益、株主間の価値移転、所得税・法人税の処理が関係します。国税庁の文書回答でも、法人が債務免除を受けた場合の債務免除益は広く益金に含まれるという基本的な考え方が示されています。
死亡日時点の債権評価を確定する前に、会社都合だけで故人名義の仕訳を消さないでください。実行日、当事者、目的、対価、会社の財務状態を明確にし、相続税・法人税・所得税を横断して事前確認します。
費用
会社への残高照会や税務署への相談自体に通常の申請手数料はありません。戸籍・登記事項証明書等の取得費、会計帳簿の復元費、税理士の残高検証・財産評価・申告報酬、弁護士の契約・回収・相続関係確認費などがかかる場合があります。
野田市・柏市・流山市・松戸市の管轄・問い合わせ先
この確認は市役所への届出ではありません。まず対象法人、法人の顧問税理士、相続税担当税理士へ確認します。相続税申告が必要な場合の提出先は、原則として故人の死亡時住所を管轄する税務署です。
故人の住所が野田市・柏市なら柏税務署、流山市・松戸市なら松戸税務署です。会社側の法人税・源泉所得税は会社の納税地で管轄が決まるため、会社所在地が4市外なら別の税務署になることがあります。税務署での面接相談は事前予約が必要です。確認日:2026-09-10。
自分でできるか
契約書、会社帳簿、双方の通帳、返済履歴が一致し、残高と当事者に争いがない場合は資料整理まで本人対応できることがあります。死亡日残高確認書を作り、元本・利息・返済期日・根拠資料を会社と相続側で共有します。
専門家に相談した方がよいケース
- 契約書がなく、帳簿と通帳が一致しない
- 多額または長期滞留の役員借入金・貸付金がある
- 会社が赤字、債務超過、休業、清算・再生中である
- 複数の相続人・株主が返済先や残高を争っている
- 故人の保証債務や会社との相殺がある
- 非上場株式と貸付金債権を両方相続する
- 債権放棄、債務免除、DES、資本振替を検討する
- 相続放棄の3か月または相続税の10か月が迫っている
注意点
- 会社側の科目名を逆向きに読む:役員借入金は故人側の債権、役員貸付金は故人側の債務になり得ます。
- 科目名だけで確定しない:契約・通帳・元帳・返済履歴を照合します。
- 死亡日で残高を切る:決算日残高をそのまま使いません。
- 赤字だけでゼロ評価しない:回収不能性を客観資料で検討します。
- 株式と貸付金を混同しない:それぞれ別の財産として調査・評価します。
- 返済先を口頭で決めない:相続関係と会社への対抗要件を確認します。
- 仕訳を先に消さない:放棄・相殺・資本振替前に税務と法務を確認します。
よくある質問
会社の役員借入金は故人の借金ですか
通常は反対です。会社が役員等から借りている負債科目なので、故人が実際の貸主なら故人側では会社に対する貸付金債権です。
会社が債務超過なら貸付金をゼロにできますか
債務超過だけでは直ちにゼロ評価できません。死亡日時点の資産、担保、返済実績、事業継続性、法的整理などから、回収不能または著しく困難な金額を客観的に判断します。
会社の役員貸付金は相続税から控除できますか
故人の死亡時に現に存在し、確実な返済債務と認められ、相続人等が負担するなど債務控除の要件を満たす場合に検討します。帳簿残高だけでなく契約と入出金を確認します。
相続人が会社の社長なら役員借入金を消せますか
自由には消せません。故人の債権を承継した人、他の相続人・株主、会社、税務への影響があります。債権放棄・債務免除・相殺・DESの処理を実行前に確認します。
市役所で手続きしますか
通常は市役所への届出ではありません。会社と税理士等で残高を確定し、相続税申告が必要なら故人の死亡時住所を管轄する税務署へ申告します。
関連する相続手続き
- No.2 相続人を確定する
- No.3 相続財産・債務を調査する
- No.4 遺産分割協議書を作成する
- No.89 個人事業の死亡・承継届出
- No.91 相続税申告
- No.93 非上場株式の相続
- No.99 相続放棄
参考にした公式情報
- 国税庁「財産評価基本通達204・205」
- 国税庁「相続財産から控除できる債務」
- 国税庁「相続税の申告手続」
- 国税庁「金銭を貸し付けたとき」
- 国税庁「取引相場のない株式の評価」
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「会社法」
情報確認日:2026年9月10日