相続手続き100チェックリスト No.55。故人の個人借入れは死亡だけで消えず、可分な債務は原則として各相続人へ法定相続分で当然に分割されます。相続人同士で一人が全額負担すると決めても貸主は拘束されません。全財産・全債務と3か月期限を確認し、返済・署名前に相続方針を決めます。
No.55 個人借入で確認する6項目
- 確認項目
- 確認する内容
- 借入れの事実
- 借用書、送金、領収書、メッセージ、帳簿
- 死亡時残高
- 元本、返済済み額、利息、遅延損害金、充当
- 返済条件
- 返済期日、期限の利益、利率、振込先
- 相続人・割合
- 相続人、法定相続分、貸主の同意
- 保証・担保
- 保証人、連帯債務、抵当権、共同借主
- 相続・税務
- 3か月期限、放棄、限定承認、債務控除
「長男が全額払う」と決めても貸主は拘束されない
可分な借入債務は、原則として各相続人へ法定相続分に従って当然に分割されます。裁判所は、相続人内部で一人に負担させる合意をしても貸主には主張できないと案内しています。
ほかの相続人を貸主との関係でも免責するには、貸主の同意を得た債務引受等が必要かを確認します。相続方針を決める前に返済・債務承認・新契約をしないことも重要です。
故人の個人借入に対応する9STEP
- 1
借用書・通帳・返済記録・メッセージ・帳簿を集める
- 2
請求者の本人確認と貸付けの根拠資料を求める
- 3
貸付け、贈与、立替金、返済済みを証拠で区別する
- 4
死亡日時点の元本・利息・遅延額を再計算する
- 5
ほかの借金、保証、担保を含む全財産・全債務を調べる
- 6
相続放棄・限定承認・期間伸長の3か月期限を確認する
- 7
単純承認、限定承認、相続放棄の方針を決める
- 8
承継時は各相続人の負担と貸主の同意・返済条件を文書化する
- 9
返済記録、残高証明、相続税の債務資料を保存する
誰が必要か
亡くなった方が親族、知人、取引先等の個人から金銭を借り、死亡時に未返済残高がある場合に相続人が確認します。貸主から初めて請求を受けた場合も、すぐに支払いや債務承認をせず、貸付けの事実と死亡日時点の残高を調べます。
期限
借金の返済期日は契約内容によります。死亡によって一律に延期されたり、直ちに全額の期限が来たりするわけではないため、契約書の期限の利益喪失条項も確認します。
民法915条と裁判所の案内によると、相続放棄・限定承認は、自己のために相続開始があったことを知った時から原則3か月以内です。調査しても方針を決められないときは、この期間内に承認又は放棄の期間伸長を申し立てます。
個人からの借金も相続される
民法896条により、相続人は一身に専属するものを除き、被相続人の財産上の権利義務を承継します。借用書が個人名義でも、死亡だけで債務は消えません。ただし、貸主の主張だけで借入れや金額が確定するわけではないため、証拠と返済履歴を照合します。
借金は原則として法定相続分で当然に分かれる
裁判所の家事事件Q&Aでは、被相続人の債務は相続開始と同時に各相続人へ法定相続分に従って当然に分割され、一般には遺産分割の対象にならないと説明されています。貸主は原則として、各相続人へその法定相続分に応じた額を請求します。
「一人が全額負担する」という合意だけでは貸主を拘束しない
相続人同士で「長男が全額返す」と決めても、それは相続人内部の負担の合意であり、貸主は拘束されません。民法902条の2も、相続債権者が法定相続分に応じて権利を行使できることを定めています。特定の相続人へ債務を集中させ、ほかの相続人を免責するには、貸主の同意を得た免責的債務引受等が必要かを契約内容に即して確認します。
必要書類・証拠
- 借用書、金銭消費貸借契約書、公正証書、変更合意
- 貸主から故人への振込明細、現金受領書
- 故人から貸主への返済履歴、領収書、通帳
- メール、メッセージ、会計帳簿、確定申告資料
- 利率、返済期日、遅延損害金、保証・担保に関する資料
- 相続人と法定相続分を確認できる戸籍類
借用書の元本から返済済み額を差し引き、利息の充当と死亡日時点の残高を再計算します。書面がなくても貸付けが認められることはありますが、贈与、立替金、預り金、既返済との区別が問題になります。
知らない貸主から請求されたとき
請求者の氏名・住所・連絡先、貸付日、送金方法、契約書、返済履歴、債権を取得したという場合の承継資料を文書で求めます。本人確認前に故人の個人情報を伝えたり、借用書原本を渡したり、支払約束書へ署名したりしません。詐欺や不当請求が疑われるときは警察や弁護士へ相談します。
利息・遅延損害金を確認する
利率と遅延損害金は契約書だけでなく、利息制限法への適合も確認します。制限を超える利息部分は無効となり得ます。返済金の元本・利息への充当方法でも残高が変わるため、高額な請求や長期延滞は専門家に再計算を依頼します。
保証・連帯債務・担保は別に確認
故人の借金に保証人や担保が付いていても、相続人の債務が自動的になくなるわけではありません。貸主が保証人へ請求できる範囲、保証人が支払った後の求償、抵当権等の担保、共同借主の責任を契約ごとに確認します。反対に、故人が誰かの保証人だった場合は、その保証債務自体を相続する可能性があるため別件として調査します。
相続方針を決める前は返済・承認・処分に注意
民法921条は、相続財産の全部または一部を処分したときなどを法定単純承認としています。相続放棄・限定承認を検討中に、故人の預金から返済する、新たな返済合意を結ぶ、債務承認書へ署名する、担保を設定する行為は、結論へ影響し得ます。保存行為等との区別は事情によるため、先に弁護士・司法書士へ相談します。
相続放棄・限定承認・期間伸長
相続放棄が受理されると、その相続人は初めから相続人でなかったものと扱われ、故人の借金を承継しません。ただし、自分自身が保証人・連帯債務者・共同借主なら、その固有の責任は残ります。貸主から請求された場合は、受理通知書や受理証明書等で説明します。
限定承認は、相続財産の限度で債務を負担する手続きです。共同相続人全員が共同で行う必要があり、清算手続も伴います。財産・債務が不明だから自動的に選べる簡単な制度ではありません。調査時間が足りない場合は期間伸長を期限内に検討します。
承継して返済するとき
単純承認する方針が確定したら、各相続人の法定相続分、死亡日時点残高、返済期日、振込先を貸主と確認します。一人がまとめて支払う場合も、相続人間の求償関係と貸主側の免責を文書化します。返済条件を変更する場合は元契約との関係を明示し、振込記録・領収書・残高証明を保存します。
相続税の債務控除
国税庁によると、相続開始時に現に存在し、確実と認められる借入金等は、一定の場合に遺産総額から控除できます。個人間借入れでは、借用書の有無だけでなく、送金、返済実績、残高、利息、相続人が実際に負担する額を資料で示します。
相続税基本通達では、金額が確定していなくても債務の存在が確実なら、確実と認められる範囲を控除する扱いがあります。保証債務は原則として控除できず、主たる債務者が弁済不能で求償できないなど一定の場合に限られます。連帯債務も実際の負担部分等で判断するため、国税庁のQ&Aを踏まえて税理士へ確認します。
費用
貸主への残高確認・返済に共通の公的手数料はありません。裁判所の案内では、相続放棄は申述人1人につき収入印紙800円、限定承認と期間伸長は各申立ての収入印紙800円で、連絡用郵便切手や戸籍等の取得費用もかかります。最新の郵便料と必要書類は管轄裁判所へ確認します。
野田市・柏市・流山市・松戸市の管轄・問い合わせ先
借入残高と返済方法の確認先は貸主で、市役所への共通の届出はありません。故人の最後の住所が4市のいずれかなら、相続放棄・限定承認・承認又は放棄の期間伸長は千葉家庭裁判所松戸支部へ申し立てます。相続人の現在住所ではなく、故人の最後の住所で管轄を判断します。
野田市
貸主(債権者)/千葉家庭裁判所松戸支部
故人の最後の住所が野田市なら、相続放棄・限定承認・期間伸長は松戸支部が管轄です。個人借入れの残高確認・返済交渉は貸主へ行います。
柏市
貸主(債権者)/千葉家庭裁判所松戸支部
故人の最後の住所が柏市なら、相続放棄・限定承認・期間伸長は松戸支部が管轄です。個人借入れの残高確認・返済交渉は貸主へ行います。
流山市
貸主(債権者)/千葉家庭裁判所松戸支部
故人の最後の住所が流山市なら、相続放棄・限定承認・期間伸長は松戸支部が管轄です。個人借入れの残高確認・返済交渉は貸主へ行います。
松戸市
貸主(債権者)/千葉家庭裁判所松戸支部
故人の最後の住所が松戸市なら、相続放棄・限定承認・期間伸長は松戸支部が管轄です。個人借入れの残高確認・返済交渉は貸主へ行います。
管轄・電話番号の確認日:2026-09-02。電話は松戸支部の家事訟廷事件係(相続放棄・限定承認等の新件受付)です。故人の最後の住所が4市外なら管轄が変わります。
自分でできるか
借入れの事実と残高が明確で、全財産・全債務を把握し、単純承認の方針が確定しているなら、貸主との残高確認・返済管理を自分で進められる場合があります。3か月期限、債務争い、保証・担保、一人への債務集中が関係する場合は専門家確認を優先します。
専門家に相談した方がよいケース
- 借用書がない、贈与か貸付けか、返済済みかで争いがある
- 請求額に高額な利息・遅延損害金が含まれる
- 資産より債務が多い、または全容が3か月以内に分からない
- 相続放棄・限定承認・期間伸長を検討している
- 保証、連帯債務、抵当権等の担保がある
- 相続人の一人だけが負担し、ほかの相続人の免責を求める
- 個人間借入れを相続税の債務控除へ計上する
注意点
- 請求どおり払わない:貸付けの根拠と死亡時残高を照合します。
- 借金は法定相続分で分かれる:相続人内部の合意だけでは貸主を拘束しません。
- 3か月を管理する:放棄・限定承認・期間伸長は期限前に検討します。
- 方針確定前に処分しない:返済・債務承認・新契約の前に相談します。
- 保証を別に見る:相続放棄しても自分固有の保証責任は消えません。
- 税務資料を残す:送金、返済、残高、実際の負担を証明します。
よくある質問
借用書がなければ返済しなくてよいですか
借用書がなくても、振込、返済記録、メッセージ等から貸付けが認められる場合があります。反対に借用書があっても返済済みの可能性があるため、証拠全体で判断します。
長男が全額返すと遺産分割協議書に書けば、ほかの相続人は免責されますか
相続人内部の合意だけでは貸主を拘束しません。ほかの相続人を貸主との関係でも免責するには、貸主の同意を得た債務引受等が必要かを確認します。
相続放棄すれば個人への借金も払わなくてよいですか
有効な相続放棄により故人の借金は承継しません。ただし、自分が保証人・連帯債務者・共同借主である場合の固有の責任は別です。
一部を返した後でも相続放棄できますか
故人の財産からの返済や債務に関する行為が法定単純承認に当たるかは事情によります。追加の支払いをせず、行為の内容と原資を示して弁護士・司法書士へ至急相談します。
個人への借金も相続税から控除できますか
死亡時に存在し確実な債務で、相続人が実際に負担する等の要件を満たせば対象になり得ます。借用書だけでなく送金・返済・残高資料を保存します。
関連する相続手続き
参考にした公式情報
- e-Gov法令検索「民法」
- 裁判所「裁判手続 家事事件Q&A」
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- 裁判所「相続の限定承認の申述」
- 裁判所「相続の承認又は放棄の期間の伸長」
- 裁判所「千葉県内の管轄区域表」
- 千葉家庭裁判所「窓口案内」
- 国税庁「相続財産から控除できる債務」
- 国税庁「第13条《債務控除》関係」
- 国税庁「保証債務と連帯債務の債務控除」
- e-Gov法令検索「利息制限法」
情報確認日:2026年9月2日
借入れの成立、残高、相続人ごとの負担、単純承認、保証・担保、債務控除は、契約と個別事情で結論が変わります。支払いや署名の前に専門家へ確認してください。