相続手続き100チェックリスト No.87。配偶者居住権は、相続開始時に故人所有の建物へ住んでいた法律上の配偶者が、遺産分割・遺贈等で取得する権利です。自動取得ではなく、第三者へ主張するには設定登記が必要です。故人と配偶者の共有建物は対象になり得ますが、配偶者以外の人との共有建物は対象外です。
No.87 配偶者居住権の要件・費用・申請先
- 確認項目
- 要点
- 対象者
- 相続開始時に居住していた法律上の配偶者
- 取得原因
- 遺産分割・遺贈・死因贈与・一定の審判
- 共有建物
- 夫婦共有は可/配偶者以外との共有は不可
- 存続期間
- 原則終身/別の期間も設定可能
- 登録免許税
- 原則、建物評価額の0.2%
- 申請先
- 対象建物所在地を管轄する法務局
自動取得ではない。取得後は第三者より先に登記する
長期の配偶者居住権は、死亡だけでは発生しません。遺産分割・遺贈等で取得し、建物所有者と共同で設定登記をします。法務省は、第三者へ主張するため取得後できるだけ早い登記を案内しています。
故人と配偶者の共有建物でも対象になり得ます。故人が配偶者以外の人と共有していた建物は対象外です。先順位の抵当権等があれば居住継続へ影響するため、登記簿全体を確認します。
配偶者居住権の設定登記10STEP
- 1
法律婚・相続開始時の居住実態・建物の共有者を確認する
- 2
遺言・死因贈与契約・相続人・相続財産を調査する
- 3
登記事項証明書で所有権・抵当権・差押え等を確認する
- 4
所有権取得案と居住権取得案を税務・二次相続まで比較する
- 5
遺産分割・遺贈・審判等で取得原因と存続期間を確定する
- 6
建物所有権を取得する人への相続・遺贈登記を準備する
- 7
協議書・戸籍・登記識別情報・印鑑証明書等をそろえる
- 8
建物評価額から登録免許税を計算する
- 9
所有者と配偶者が管轄法務局へ共同申請する
- 10
完了後に期間・特約と費用負担・将来の抹消方法を共有する
配偶者居住権とは
配偶者居住権は、亡くなった人の配偶者が、相続開始時に住んでいた建物の全部を原則無償で使用・収益できる権利です。2020年4月1日に始まった制度で、建物の所有権と居住する権利を分けて取得できます。
配偶者が建物所有権そのものを取得するより評価額を抑え、預貯金などを取得できる余地が生じる場合があります。一方、譲渡できないこと、所有者との関係が続くこと、売却・建替え・担保処分へ影響することから、常に有利とは限りません。
誰が取得できるか
民法1028条の対象は、相続開始時に被相続人の財産に属する建物へ居住していた法律上の配偶者です。内縁関係の人は配偶者居住権を取得できません。住民票の住所だけでなく、実際の居住状況を確認します。
建物が故人と配偶者の共有でも利用できます。法務省も夫婦共有の建物を対象に含めています。対象外となるのは、相続開始時に被相続人がその建物を配偶者以外の人と共有していた場合です。旧原稿の「共有なら難しい」という説明を、この区別に改めました。
配偶者が建物の一部だけに住んでいた場合でも、成立する権利の目的は建物全部です。ただし、従前の用法に従い、善良な管理者の注意をもって使用・収益しなければなりません。
自動的に取得する権利ではない
長期の配偶者居住権は死亡だけで自動発生しません。遺産分割で取得するものと定める、遺言で遺贈する、死因贈与契約をする、または家庭裁判所の遺産分割審判で取得する必要があります。
審判で定められるのは、共同相続人間に取得の合意がある場合、または配偶者が取得を希望し、建物所有者の不利益を考慮しても生活維持のため特に必要と認められる場合です。話合いが不成立なら必ず認められるわけではありません。
2020年4月1日より前に作成した遺言で配偶者居住権を設定することはできません。古い遺言がある場合は、成立時期と記載内容を司法書士・弁護士へ確認します。
登記しないと第三者へ対抗できない
民法1031条により、居住建物の所有者は配偶者に設定登記を備えさせる義務を負います。配偶者居住権を取得しても、登記しなければ建物の譲受人など第三者へ権利を対抗できません。
建物に先順位の抵当権等がある場合は、競売などで居住を維持できない可能性があります。所有権、抵当権、差押え、仮登記等の受付順位を登記事項証明書で確認し、取得後は速やかに登記します。
相続登記との順番と申請人
まず建物所有権を取得する相続人等への相続・遺贈の登記を行い、その所有者を登記義務者、配偶者を登記権利者として設定登記を共同申請するのが基本です。連件で申請する場合は登記の順番と添付書類を司法書士へ確認します。
相続登記には原則3年の申請期限があります。配偶者居住権について遺産分割がまとまらないことだけで、相続登記期限が自動的に延びるわけではありません。必要に応じて相続人申告登記も検討します。
必要書類
法務局の最新様式では、遺産分割、遺贈(遺言執行者あり・なし)、死因贈与など原因別に記載例が分かれています。典型的な遺産分割による設定登記では、次を確認します。
- 配偶者居住権設定登記申請書
- 遺産分割協議書などの登記原因証明情報
- 被相続人の死亡と相続関係を証明する戸籍等
- 建物所有者の登記識別情報または登記済証
- 建物所有者の印鑑証明書
- 代理申請する場合の委任状
- 課税価格を確認する固定資産評価証明書等
存続期間、特約、建物の表示、原因日付を申請書と取得原因資料で一致させます。遺産分割による設定登記では、登記原因の日付は原則として被相続人の死亡日です。戸籍等の原本還付には相続関係説明図等を利用できる場合があります。
存続期間
原則は配偶者の終身です。ただし、遺産分割協議、遺言または家庭裁判所の審判で別の期間を定められます。期間を定めると、満了後は住み続ける法的根拠がなくなるため、配偶者の年齢、健康、施設入所、建替え予定を踏まえて決めます。
配偶者居住権は配偶者の死亡で消滅し、相続人へ引き継がれません。死亡による抹消登記は建物所有者が単独申請できます。期間満了、合意、放棄、用法違反等による消滅では、原因に応じた抹消手続を確認します。
登録免許税とその他の費用
法務省と登録免許税法別表第一による設定登記の登録免許税は、原則として建物の固定資産税評価額の0.2%(1000分の2)です。土地の評価額へ0.2%を掛ける制度ではありません。最低税額や端数処理、持分、非課税建物は個別に確認します。
このほか、相続登記の登録免許税、評価証明書・戸籍等の実費、郵送費、司法書士報酬がかかります。家庭裁判所を利用する場合は収入印紙・郵便料、税務評価を依頼する場合は税理士等の費用も生じます。
相続税評価は建物と敷地の双方に影響する
国税庁は、配偶者居住権、負担付き居住建物、敷地利用権、負担付き敷地をそれぞれ評価する方法を示しています。建物だけを低く評価すればよいわけではなく、配偶者の年齢に応じた存続年数、建物の耐用年数・経過年数、法定利率による複利現価率等を使います。
遺産分割上の評価と相続税申告上の評価は、目的や合意によって一致しないことがあります。配偶者が所有権を取得する案、配偶者居住権を取得する案、二次相続まで含む税負担を税理士と比較します。
固定資産税・修繕・第三者利用
固定資産税の納税義務者は建物所有者です。ただし配偶者は建物の通常の必要費を負担するため、所有者が納付した固定資産税相当額を配偶者へ請求できると法務省は説明しています。誰がいつ負担するかを協議書等で具体化します。
配偶者は使用に必要な修繕ができます。配偶者が相当期間内に修繕しなければ所有者が修繕でき、修繕の必要や権利主張者が現れた場合には所有者への通知が必要です。増改築や、第三者へ使用・収益させる場合は所有者の承諾が必要です。
譲渡・施設入所・途中で消滅させる場合
配偶者居住権そのものは第三者へ売却・譲渡できません。所有者の承諾があれば第三者に建物を使用・収益させることはできますが、契約、修繕、保険、税務を確認します。
施設入所等で不要になった場合は、配偶者の放棄や所有者との合意による消滅を検討できます。ただし、適正な対価なしに存続期間満了前に消滅させると、国税庁は、原則として建物所有者が配偶者から利益を贈与で取得したものとみなされる可能性を示しています。抹消前に税理士へ確認します。
配偶者短期居住権との違い
配偶者短期居住権は、相続開始時に故人所有の建物へ無償で住んでいた配偶者を一定期間保護する法定の権利です。原則として遺産分割で建物の帰属が確定する日まで、最低6か月間などの保護があります。
配偶者短期居住権は登記できず、財産的価値を取得する長期の配偶者居住権とは別制度です。短期居住権があることだけで終身居住が保障されるわけではありません。
野田市・柏市・流山市・松戸市の管轄・問い合わせ先
設定登記は配偶者の住所ではなく、対象建物の所在地を管轄する法務局へ申請します。遺産分割の調停・審判が必要な場合は、原則として被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所が基準です。
野田市・柏市の建物は柏支局、流山市・松戸市の建物は松戸支局です。4市が被相続人の最後の住所地なら、遺産分割事件は千葉家庭裁判所松戸支部の管轄区域です。事件の種類で提出先が異なる場合があるため事前に確認してください。確認日:2026-09-10。
自分でできるか
法務局には申請書様式がありますが、相続登記との連件、登記識別情報、遺産分割・遺言、税務評価、将来の処分制約が関係します。単純な共同申請なら本人申請も可能ですが、制度を選ぶ段階から司法書士・税理士を交えて検討するのが安全です。
司法書士・税理士・弁護士へ相談した方がよいケース
- 建物が故人と配偶者以外の人との共有になっている
- 配偶者の居住実態や法律上の婚姻関係に争いがある
- 所有者となる相続人と配偶者の意見が対立している
- 先順位の抵当権、差押え、仮登記がある
- 終身か期限付きか、所有権取得かを比較したい
- 相続税評価、二次相続、途中消滅の贈与税を確認したい
- 施設入所、売却、建替え、賃貸を予定している
注意点
- 自動取得ではない:遺産分割、遺贈、死因贈与、審判等が必要です。
- 夫婦共有は対象になり得る:配偶者以外との共有は対象外です。
- 登記を急ぐ:第三者との優先関係は登記が重要です。
- 土地には設定登記しない:登記対象は建物ですが、敷地利用と税務評価も確認します。
- 譲渡できない:施設入所後の扱いまで考えて期間を決めます。
- 途中消滅の税務:無償放棄等で建物所有者に贈与税問題が生じる可能性があります。
よくある質問
配偶者なら死亡と同時に自動取得しますか
長期の配偶者居住権は自動取得ではありません。遺産分割、遺贈、死因贈与または一定の審判が必要です。配偶者短期居住権とは別です。
故人と配偶者の共有建物でも設定できますか
できます。法務省も夫婦共有を対象に含めています。故人が配偶者以外の人と共有していた場合は成立しません。
登記しなくても住み続けられますか
取得原因により配偶者と所有者の間では権利が成立しても、登記しなければ建物を取得した第三者へ対抗できません。取得後は速やかに設定登記します。
土地にも配偶者居住権を登記しますか
設定登記の対象は居住建物です。ただし建物の使用・収益に必要な範囲で敷地を利用でき、相続税では敷地利用権も別に評価します。
固定資産税は誰が払いますか
自治体に対する納税義務者は建物所有者です。一方、配偶者は通常の必要費を負担するため、所有者から固定資産税相当額を請求される関係になり得ます。
配偶者居住権を子へ相続できますか
できません。配偶者の死亡で消滅し、相続人へ承継されません。建物所有者が死亡を証する情報を付けて抹消登記を申請します。
施設へ入ったら権利を売れますか
配偶者居住権は譲渡できません。放棄や合意消滅は可能ですが、対価が不十分だと建物所有者側に贈与税の問題が生じる可能性があるため、抹消前に税務確認が必要です。
関連する相続手続き
- No.2 法定相続人を確認する
- No.3 相続財産を調査する
- No.4 遺産分割協議書を作成する
- 相続不動産を売却する
- No.84 相続登記
- No.85 抵当権・根抵当権抹消登記
- No.98 遺産分割調停・審判
参考にした公式情報
- e-Gov法令検索「民法」
- e-Gov法令検索「不動産登記法」
- 法務省「残された配偶者の居住権を保護するための方策」
- 法務局「配偶者居住権の登記申請書」
- 法務局「配偶者居住権設定登記・解説及び注意事項」
- 法務省「配偶者居住権の登記と登録免許税」
- 国税庁「配偶者居住権等の評価」
- 裁判所「遺産分割調停」
- 千葉地方法務局「不動産登記管轄区域一覧」
- 裁判所「千葉県内の管轄区域表」
情報確認日:2026年9月12日
成立要件、取得原因、存続期間、先順位担保、必要書類、相続税評価、途中消滅の課税は個別事情で変わります。設定・抹消前に管轄法務局、司法書士、税理士または弁護士へ最新要件を確認してください。